欠損歯列の診断をふまえたインプラント治療計画

欠損歯列の診断と治療計画

インプラント治療は、1歯欠損から無歯顎まで多岐にわたり応用されます。その目的は、第一に臼歯部欠損では咬合支持の獲得であり、前歯部欠損ではガイドの回復です。さらに全顎的には、咀嚼機能・審美・発音障害の回復などと考えられます。さまざまな欠損状況に応用されるインプラント治療ですが、症例ごとに異なる欠損の特徴を正しく把握し評価することは、インプラント治療成功のためにたいへん重要になります。

現在、筆者は、インプラント症例の術前診査としてEichnerの分類と宮地の咬合三角の分類を使用して欠損歯列の評価を行っています。これらの分類法を用いることにより、補綴設計を考えるうえで必要となる情報下顎位の安定度、すれ違いの咬合やその一歩手前の難症例といった症例の難易度、剪断応力の有無、そのために必要な補綴物の強度、積極的に補綴治療を介入するべき次期などを知ることができるのです。言うまでもありませんが、欠損歯列の診断は、インプラント治療のみならず他の補綴治療においても必要なスクリーニングとなります。

宮地の咬合三角

東京都開業の宮地建夫氏が発案した咬合三角は、咬合支持数と歯数の2つの指標により無歯顎までのすべての欠損歯列を4つのエリアで表現します。この4つのエリアは、欠損歯列の難症例の範囲を客観的に確認できる点、難症例までの距離を大まかに捉えることができる点が有用です。

たとえば、「第Uエリアの下部(咬合支持数6と5)の段階で、さらなる咬合崩壊により難症例の多い第Vエリアに突入する前に、インプラントによる咬合支持を新たに獲得することによって咀嚼機能の維持安定を図りたい」というようなイメージをもつことは、治療計画の立案に際したいへん有効になります。さらに、個々の歯の状態の評価や受圧・加圧要素等の条件を加えて診査すれば、補綴治療の介入時期を知ることもできます。


・臼歯部での咬合支持域の分類
・残存歯による顎位の安定度

咬合接触を左・右側それぞれ大臼歯群と小臼歯群の接触とに分割すると、有歯顎の歯列は4つの咬合支持域からなっている。その残存状態によって以下のように欠損状態を分類する

A,4つの支持域すべてに対合接触のあるもの
A1:歯冠修復されているが、上下の全歯が揃っているもの
A2:片顎には全歯があるが、対顎に限局的な欠損があるもの
A3:上下顎に欠損があるが、4つの支持域すべてに支持があるもの
B,4つの支持域全部には対合接触のないもの
B1:3つの支持域に対合接触のあるもの
B2:2つの支持域に対合接触のあるもの
B3:1つの支持域に対合接触のあるもの
B4:支持域外(前歯部)に対合接触のあるもの
C,対合接触の全くないもの
C1:上下顎に残存歯があるが、対合接触のないもの
C2:片顎は無歯顎で、対顎に残存歯があるもの
C3:上下顎とも無歯顎のもの

Eichnerの分類

臼歯部での咬合支持域、つまり左右の小臼歯群、大臼歯群の4つの咬合支持域の対合接触関係により、4つの支持域すべてに対合接触のあるグループをA、4つの支持域全部には対合接触のないグループをB、対合接触の全くないグループをCと分類します。

臨床的にこの分類で最も使用されるのはB1〜B4のBグループです。このグループが臼歯部での咬合支持の変化を最も表しているからです。また、補綴治療を行ううえで難症例となるすれ違い咬合は、C1に含まれます。ほかのCグループ、つまり少数歯残存症例は一般的におだやかに推移することが多く、あまりその設計について迷うことはないようです。欠損歯数が少なく、咬合支持数が多く、下顎位が安定しているAグループも同様です。

咬合支持、受圧要素(条件)、加圧要素(因子)

欠損歯列の評価では、Eichnerの分類と宮地の咬合三角の分類を使用し、欠損歯列の状況を大まかに掴んだ後、口腔内の精査を行っています。個々の歯の齲蝕罹患度、根尖病変の有無、歯周病罹患度(重症度、進行速度、抵抗性など)、顎提の状態、咬合支持、残存している歯の受圧要素(片顎単位でどのように歯が残っているか)、加圧要素(残存歯の対顎遊離端欠損への影響)等の力の要素を診査し、さらに問診で現病歴、即往歴を時間軸に従ってできるだけ聞き出すよう努めています。

残存歯による顎位支持
上下の歯が何ヵ所で咬んでいるか

咬合支持[残存歯による顎位支持(顎位の安定度)]

上下の歯の接触によって咬合が支持されている、つまり下顎位支持の状態をいいます。さらに、上下の歯が歯式上で何ヵ所咬んでいるかを咬合支持数と呼びます。咬合支持数が多いほど下顎位は安定しているといえます。実際には1歯対2歯の状態がありますが、多くの分類では歯式上で評価していくので、多少の食い違いは発生します。あくまで欠損状態を大まかに捉えることが目的です。


図1 68歳 女性 上下顎義歯の不適合と疼痛で来院。初診時のパノラマX線写真を見ると、の加圧因子により、下顎右側遊離端欠損顎堤の垂直的骨吸収と歯槽頂部に白線と骨不透過像が認められる。これは力による骨硬化像と思われる。さらに上顎前歯部残存歯が脆弱なため長い遊離端欠損となり、上顎の受圧要素は悪いといえる。
図2 38歳 女性 ブリッジの破折で来院。による加圧でポンティアック部とクラウン連結部がちぎれるように切断されていた。剪断応力によると考えられる。インプラントにより咬合支持を獲得し、剪断応力を回避した。

支台歯の配置・数
片顎単位でどのように歯が残っているか
(遊離端の数と長さ)

受圧要素

片顎単位でどのように歯が残っているかをみていきます。テーブルの足のように、四隅に歯が残っていれば、その歯を支台とした補綴物は安定します。この状態を受圧条件がよいと判断します。しかしながら、片側に偏って歯が残存し、長い遊離端欠損があるような場合には、なかなか補綴物の安定が得られません。つまり受圧条件が悪いわけです。

欠損部の対合関係
欠損部の対顎に歯があるか

加圧要素

残存している歯が、その対顎にどのような影響を与えているかをみます。対顎が遊離端欠損で。しかも対合歯によりいつも力を受け、顎提が吸収しているような状態は、加圧因子が働いているといえます。(図1) さらに、加圧要素の臨床的現象として剪断力があります。ブリッジの連結部が対合歯の強い加圧を受けることにより金属疲労を起こし、破折してしまう状態です。(図2


欠損歯列の診断に基づいたインプラント治療の実際

以上のように、2つの分類法を用いて欠損歯列の状態を診査します。宮地が提唱するように「欠損歯列が現在おかれている問題を欠損レベルとして知り、さらにその欠損歯列の未来予測をリスクとして知る」ことが、補綴設計を考えるうえで重要と考えます。

欠損歯列の評価に基づき、インプラントを用いて咬合支持を獲得したり義歯を安定させた実際の症例を示していきます。咬合崩壊の程度が小さいものから大きいものへ4症例を呈示しますが、欠損歯列の評価方法としてEichner分類と宮地の咬合三角の利用は、補綴設計を考えるうえできわめて効果的です。

欠損歯列においては、インプラントを植立することにより新たな咬合支持を獲得するのはもちろん、歯列内配置を改善して受圧条件を整えることで、偏った力を再配分することができるのが大きなメリットといえるでしょう。これからも、天然歯を守るためにインプラントを使用していきたいと考えています。

症例1 第Tエリア

症例の概要

3歯欠損の少数歯欠損の状態である。Eichnerの分類では、咬合支持域が大臼歯群1ヵ所、小臼歯群2ヵ所の3ヵ所でB1となり、下顎位は歯の咬合接触で安定している。合三角では、咬合支持数11で第Tエリアとなる、つまり、この症例ではできるだけ少ない侵襲で処置を行うように補綴設計を考えることが望ましい。
欠損に対しては、 支台のブリッジを計画した。ブラッシングの強化によりカリエスリスクを低減できれば、予後はよさそうである。問題は 欠損である。補綴をしないという選択肢もあるが、患者の主訴は咬合を回復させたいということであった。

診査所見

口腔内全体:歯冠修復物が多いことより、カリエスリスクが高かったことが予測される。周疾患はなく、歯冠-歯根比も良好である。
 受圧条件・加圧因子: が加圧因子となるが、下顎欠損部顎提の吸収もないことから影響はないと判断できる。受圧条件はの遊離端欠損が問題で、義歯での対応は片側性か両側性かで悩むところである。咬合支持数が多いので、下顎位は安定している。
 顎提:高さ幅ともに十分な骨量がある
 既往歴:前医で数歯の治療を受け、 は数年前に抜歯された。初診時すでに も失活歯であった。初診時に急性症状はない。

補綴設計
  1. 可撤性のパーシャルデンチャー
    (大連結子をもった両側性)
  2. 可撤性のパーシャルデンチャー
    (片側性)
  3. に移植

ここまでの診査で以上が考えられたが、患者の希望は固定式であった。1988年当時、術者が応用できる術式のうち、確実に咬合支持の獲得ができる方法としてインプラントを選択した。加えて行ったインプラント治療のための診査にて、骨量は十分で下顎管までの距離があること、インプラント周囲の頬舌的骨の厚みが1mm以上確保できること、対合天然歯とインプラント植立方向がずれていないことを確認し、インプラント植立可能と判断した。
現在では原則としてインプラントと天然歯は連結すべきではないとされるが、1988年頃のインプラント補綴の術式は、天然歯と連結する方法がとられていた。この症例は、歯周疾患に罹患していない動揺のの少ない天然歯と連結した。天然歯とインプラントにある程度の距離がある。天然歯、インプラントとも、セメント合着を行った。
インプラント使用により咬合三角は第1エリアのままであるが、EichnerAに回復した。インプラント植立後20年間、一歯の喪失もなく、欠損の拡大は起こっていない。欠損歯列の始まりの部分で、インプラントが効果的に作用していると考えている。

症例2 第Uエリア

症例の概要

欠損にインプラント治療を希望して、他院からの紹介で来院、 は前医による自家歯牙移植歯で約7年経過していたが、支持骨が減少しており、上顎左側インプラント治療期間中に動揺が増加し、抜歯となってしまった。咬合支持数7、欠損歯数7で、咬合三角第Uエリア上部、EichnerB3症例となる。
この症例は、上顎左側臼歯部と下顎右側大臼歯部で咬合崩壊が進行しており、臼歯部での咬合支持の喪失により上顎前歯が下顎前歯に突き上げられ、さらなる欠損拡大の危険性が高い。崩壊パターンとしては、左右的すれ違い咬合への移行が予測される。現在はすれ違い咬合数歩手前と位置づけられる。インプラントの応用により臼歯部での咬合支持を獲得し、残存天然歯を守ることが治療目標となった。インプラント使用により、咬合三角は第Tエリア、EichnerAに回復した。

症例3 第Vエリア

初 診:2000年9月
患 者:48歳 男性
主 訴:下顎義歯の疼痛
残存歯:

欠損歯列の評価:
 Eichner B4
 咬合三角第Vエリア

症例の概要

上顎ブリッジ脱落で来院、のみの咬合支持で、は動揺度Vである。喪失すると咬合支持が0となり、残存歯10歯前後で上下の歯の咬合接触が全くないすれ違い咬合となる。つまりすれ違い咬合一歩手前の症例である。咬合三角できわめて難症例が集まる第Vエリアであり、患者は咀嚼障害による胃腸炎を患っていた。
最初の治療目的は左側臼歯部での咬合支持の回復であり、の動揺度は咬合調整による負担軽減を行うにつれ、Tに落ち着いた。上顎は可撤性義歯で対応している。左側臼歯部での治療効果が確認されたので、との咬合支持を獲得すべくインプラントを植立した。その結果、パーシャルデンチャーは上顎のみの使用となった。インプラント使用により、咬合三角第Uエリア(下部)、EichnerB1に回復した。8年経過した現在、さらなる歯の喪失はない。

症例4 第Wエリア

初 診:1998年6月
患 者:79歳 女性
主 訴:下顎義歯が動いて噛めない
残存歯:

欠損歯列の評価:
 Eichner c1
 咬合三角第Wエリア

症例の概要

咬合三角では少数歯残存症例の第Wエリアになり、一般的には加圧因子の影響が少なく比較的安定している群と評価されるが、Eichner分類ではすれ違い咬合と評価される。この症例は上顎の歯の加圧因子が大きく、下顎はのみで受圧条件がきわめて悪い。実際、下顎義歯に動揺による顎提の疼痛により咀嚼障害の状態であった。高齢であるため、できるだけ侵襲の少ない補綴設計とし、部にインプラントを2本植立した。バーで義歯とジョイントして維持・支持を求め、にコーヌス支台で支持を求めた。左側臼歯部での義歯沈下などの動きが制限され、咀嚼機能回復が図れた。インプラント使用によりEichnerCのままで逆に咬合三角第Vエリアに入ってしまったが、この症例のインプラントの目的は、咬合支持の獲得よりも歯列内配置を変えることで受圧条件を改善して義歯の安定をはかり、咀嚼機能を高めることにある。


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